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5.変化するデザインを的確に保護する動的意匠制度

例えば冷蔵庫は、庫内で食品などを保冷できるという機能を発揮するため、扉が開閉するようになっています。 このため、家電量販店などで冷蔵庫を買うためにチェックするときは、冷蔵庫の扉を閉じたときの状態だけでなく、扉を開いて庫内の様子もチェックします。
冷蔵庫の動的意匠    つまり、冷蔵庫のデザインでは、扉を閉じたときのデザインだけでなく、庫内の使いやすさや機能性に関係する庫内のデザインもまた重要です。 よって、冷蔵庫について意匠登録を受けるメーカー側から言えば、扉を閉じた状態のデザイン、扉を開いた状態のデザインの両方について意匠権が欲しいと思われるでしょう。

動的意匠制度は物品の形状等がその物品の機能に基づいて変化する場合に、その変化の前後にわたる形状等について意匠登録を受けることができる制度(注1)ですので、このような場合に有効に活用できます。
   ただし、動的意匠制度を利用する場合には、意匠出願の書類で意匠の変化の前後の状態が分かるような図面を作成するとともに、「意匠に係る物品の説明」欄に、その変化する機能を文章で説明する必要があります(意匠法6条4項,意匠法施行規則 様式2[備考]41,様式6[備考] 20)。
   このため、特許事務所に動的意匠制度を依頼すると、通常、図面作成の量が増加しただけの図面作成料金が加算されるとともに、「意匠に係る物品の説明」欄の文章作成料金が加算されることが多いです。
   なお、動的意匠制度を利用しない通常の意匠のことを、動的意匠との対比から静的意匠と言うことがあります。

注1:ただし、意匠法上は「動的意匠」や「動的」といった用語は用いられていません。


           また、動的意匠制度の説明として、「びっくり箱」のように、形態の変化が予想できないような場合に利用できる制度である、といった説明がされていることがあります。 この説明でも間違いではありません。しかし、動的意匠制度は「びっくり箱」のような特殊な製品で使う制度なのかな?、というような誤解を生みやすい説明でもあるともいえます。
   形態の変化が「予想できる」というのは、かなり狭い範囲を指していると考えたほうがよいでしょう。例えばハサミであれば紙などを「切る」という機能に基づいて開閉するだろう、自動車のタイヤであれば「走る」という機能に基づいて回転するだろう、という程度のものです。
   例えばさきほどの冷蔵庫では、扉を閉めた状態のデザインからでも、取っ手もついていることだし、冷蔵庫の機能からして当然扉は開くのだろう、というところまでは「予想できる」範囲です。 しかし、庫内がどんなデザインなのかは「予想できない」といえます。 したがって、本来であれば動的意匠制度を利用すべきものです。
   にもかかわらず、冷蔵庫の意匠出願で、動的意匠制度を使わずに、扉を閉めた状態だけで意匠出願することもできるのは、庫内のデザインがありふれたものであり、意匠登録の必要もないので省略できる、と考えたほうがよいでしょう。(その意味では「予想できる」ともいえますが。)

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〔動的意匠制度の関連条文〕

意匠法6条4項
意匠に係る物品の形状、模様又は色彩がその物品の有する機能に基づいて変化する場合において、その変化の前後にわたるその物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合について意匠登録を受けようとするときは、その旨及びその物品の当該機能の説明を願書に記載しなければならない。

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